英語教育でのインターネット利用の実際

 昨年11月末より神戸市ではインターネットを利用 したシアトル神戸インターネットプログラム(SKIP '94) を始めた。このプログラムはメーリングリストとWWW という2つのインターネットの機能を使い、シアトル の生徒と日本の生徒の意見交換を目的に始められた。  メーリングリストというのはある共通の目的を持つ グループを作り、そこにメールを出せばグループのメ ンバーすべてにメールが配送されるというものである。 これはNifty-Serveなどの電子メールアドレスを持っ ているだけでも利用出来る。新しくメーリングリスト を作る場合、たとえばIIJなどのプロバイダーでは月1000 円程度で作ることができる。WWWはテキストばかりでな く、画像や音声、動画なども扱うことのできるもので ある。これを使えばマウスを操作するだけで瞬時にし て世界各地に飛んでいくことができる。  神戸市側では赤塚山高校、葺合(ふきあい)高校な どが参加し、まず自己紹介、学校や地域の紹介から始 め、生徒の日常を英語でメーリングリストに発信した。 シアトル側からもまず生徒による自己紹介のメールが 届きはじめ、交流は順調に進んでいった。年が明け、 インターネット上のシアトル市の情報を集めたページ  http://www.seanet.com/Seattle/SeattleHome.html を見ているとシアトル市内の高校での発砲事件につい て書かれてあった。SKIPで詳しく聞いてみようと問合 わせたその翌日、あの阪神大震災が起こった。  電話回線が分断され、生徒との連絡も満足にできな い中でシアトルの交流校、Nathan Haleから続々と安 否を問うメールが届いた。後日、英語の授業の中でそ れらのメールに対する返事と震災の自分の体験談をメー リングリストとWWWを使い、発信した。WWWの方の体験 談のアドレスは http://www.kobe-cufs.ac.jp/kobe-city/school/ akatsuka/eyewit.html である。また、インターネット上でtalkというコマ ンドを使い、本校生徒4人と Nathan Haleの生徒4人 でリアルタイムの会話を行なった。このtalkコマンド を使うとコンピューター画面が2分割し、こちらの打 ち込んだメッセージと相手のメッセージが分けて表示 される。地震の際の様子やその後の生活など英語で情 報を交換することができ、生徒は興味を持って取り組 んでいた。この時の様子は上記アドレスのaftereq. htmlに画像を入れて公開している。またNathan Hale のアドレスは  http://hale.ssd.k12.wa.us/ である。  このような情報発信をしてたところ2月末、国連の 方よりメールをいただいた。折しも3月6日から12日 まで国連の社会開発サミットが開催されていた。ここ の会場にインターネットにアクセスできるコンピュー ターを配備し、世界の若者の声をリーダー達に伝える というVoices of Youthというプロジェクトに参加して 欲しい、というものだった。 http://www.iisd.ca/linkages/un/feedback.html 15名の生徒のメッセージを発信することができ、今回 の体験を通じて生徒が感じたことを世界に訴えた。  今後はホームページを使って学習成果の発表や地域 文化の紹介などを通じて「ありのままの日本、ありの ままの日本人」を感じてもらえるようにできればよい と考えているが、それを伝えていく手段としてやはり 英語を使っていくことになる。まさに「目的として英 語」から「手段としての英語」への発想の転換が必要 ではないだろうか。今までの教科の壁を少しづつ取り 除く必要もあるかもしれない。例えば昨年度、家庭科 と共同研究という形で文部省学習ソフトウエア情報研 究センターの遠隔学習プロジェクトに参加した。これ などは家庭科で学習したことを英語で表現し、世界に 向けて発信、それを取りまとめたものをまた家庭科に フィードバックしていくというもので、まさに英語は コミュニケーションの手段として機能したのである。  ネットワークを英語の授業に取り入れて感じたこと の1つは生徒の変化である。今まで英語は苦手で英作 文などもってのほか、といっていた生徒がSKIPでの自 己紹介や震災後の体験談では辞書を片手に必死になっ ている。ネットワーク、それは教育にとって未踏の開 拓地なのかもしれない。 e-mail : masui@staff.kobe-cufs.ac.jp ( 神戸市立赤塚山高等学校教諭 桝井伸司 )