インターネットを英語教育に活用する法(後編)

桝 井 伸 司

■授業でのネットワーク利用の実際
  先日ICTE (International Conference on 
Technology and Education) に参加しました。そ
こではインターネットを含め、さまざまな教育機
器の利用が提案されていましたが、アメリカにお
いても一般の学校では厳しい予算の問題があり、
理想と現実の壁はまだ厚いようです。限られた予
算の中で世界的規模のコンピュータネットワーク
であるインターネットをどう利用していけばよい
のでしょうか?

■本校のシステム
  現在本校にはコンピュータ教室に教師用コンピュ
ータ1台(Windows95)、生徒用には24台(MS-DOSの
み・フロッピーベース)あります。生徒それぞれ
に1枚の起動ディスク兼データ保存ディスクを用
意し、このディスクを入れて起動すると自動的に
エディターが立ち上がるようにしています。ディ
スクは2DDを720kbにフォーマットしたものを使い、
そのままIBM互換機で編集出来るようにしています。
インターネットにはダイアルアップで接続し、神
戸外大にあるWWWサーバーにftp でファイルを
送り、情報発信をしています。特に先進の設備と
いうわけではないことがお解りかと思います。

■始まりはカリフォルニア大地震
  1994年1月のカリフォルニア大地震の際、アメリ
カのパソコン通信ネットである Compuserve では
さかんに生存者の安否情報や生活情報が流されて
いました。当時本校には接続できる電話回線がな
かったので自宅で受信した情報を印刷し、英語の
時間に「生の英語」として利用しました。行方不
明になった人が次の日には無事であることがわかっ
た時などは生徒達は胸をなでおろしていました。
まさか1年後に同じ状況になるとはこの時は知る
由もなかったのですが...
  同年2月にはカナダの高校生と電子メール交換
を始めました。こちらも相手も1つのメールアド
レスしかなかったので、カナダから来たメールは
Canada News というタイトルで印刷し、授業で配
布、こちらからは数人ずつのグループごとに書か
せたものをまとめて送りました。双方の生活習慣
の違いなどを情報交換することができ、お互いに
とって新鮮な体験だったようです。また「実際に
存在する」相手に英語を書くことを通じて「英語
を使っている」という感覚を生徒達は持つことが
出来たのではないかと思います。このメールによ
る情報交換の試みはその年11月から始まった神戸
市の姉妹都市シアトルとのメール交換プログラム
SKIP'94に続きます。このプログラムは当初学校
生活や習慣の違いなどについてのメール交換が主
体でしたが、阪神大震災直後には神戸の状況を伝
える手段としても利用されました。震災後の英語
の授業では体験談を英語で書き、シアトルに送る
と同時にホームページにも掲載しました。

■他教科との共同授業
  「英語を道具として使う」というのはよく使わ
れる表現ですが、英語を使って他の教科と共同し
て授業を進めることも出来るでしょう。本校は94
年9月に NGS (National Geographic Society)の
What Are We Eatingというプロジェクトに参加し
ました。世界の国々の食生活についての報告をコ
ンピューター通信を利用して行うというものでし
たが、その時は日本での日常食の栄養バランスや
特別料理について家庭科で学習したものを英語の
授業でグループに分かれて翻訳作業をし、フロッ
ピーに入力、それを教師用のコンピュータで編集
し、プロジェクトに送るという方法をとりました。
また、同じ頃本校のホームページが開設されまし
たので生徒の日常食(お弁当)の画像を家庭科の
ページとして公開しました。他の教科と協力し合
い授業を組み立てていく、という機会はこれから
増えていくのではないでしょうか。
■英会話での利用
  1995年度の3年生の選択英会話(生徒7名)では
インターネットを全面的に取り入れた試みを展開
しました。授業の基本的な流れは、あるトピック
に基づいてディスカッションを行い、その後それ
ぞれの意見をWWW上に掲載し、世界の人々にそ
のトピックについての意見を求めていく、という
ものです。
  生徒の自己紹介のページ "Students say hello 
to you!" には公開当初からいろいろなコメントが
寄せられました。生徒には個人メールアドレスが
ないため、その都度コピーして手渡しました。検
閲していたわけではありませんが、メールがすべ
て同一アドレスに集約されていたせいかあまり変
な内容のもの(いたずらメール)はこなかったよう
です。
  5月にはGlobal School House Project のプログ
ラムのひとつ、"Where on the Globe is Roger?"
で世界をキャンピングカーに乗って旅をし、世界
の子供達をインターネットでつなごうとしておら
れるロジャーさんが来校されました。彼は現在イ
ギリスを旅行中ですが、メーリングリストに参加
すると旅行中のロジャーさんからのレポートが届
き、また質問等もすることができます。参加校と
交流することもできます。roger@gsn.org に参加
希望のメールを送ることでリストに登録されます。
ロジャーさん来校の模様はページに公開し、生徒
からのメッセージも載せています。
  6月には "We are alive in Kobe"というテーマ
で実施された文化祭を受けて神戸の復興への思い
を述べ合い、ページにも掲載しました。また今ま
で2ヶ月間の英会話の力試しという意味でインタ
ーネットフォンを使ってインターネットにアクセ
スしている人とマイクを使って実際に会話をして
みました。いつも話している ALT以外のネイティ
ブとのリアルタイムの会話は生徒にとって緊張そ
のものだったようです。
  夏休みが始まる直前にある生徒がフランスの核
実験に対する自分の疑問を訴えた英文をフロッピ
ーに入力してきました。生徒の希望もあり、ペー
ジで賛否両論を問い掛けました。夏休みをはさん
で国内外から多数のメッセージが寄せられ、9月の
授業ではそれらを読み、それぞれの意見に感想を
述べ合い、再びそれをページに出していきました。
現在59のコメントがページに掲載されています。
  その他にも環境に関する文を読み、同様に意見
を求めたりもしました。オーストラリアからは日
本語を勉強している高校生が日本語を使って描い
た環境ポスターが送られてきたりと、思いがけな
い反応があるのも現実に存在する人を相手にして
いるインターネットならではのことではないかと
思います。
  インターネットの教育利用はまだ始まったばか
りです。教育現場で実際に利用する私達が文字通
りのネットワークを組み、お互いに利用法を研究
しあうことが大切だと思います。そのために先日
WWWBoard for Education というページを開設し
ました。インターネットを教育に利用するための
電子会議室ですが、お互いに利用法を研究しあい
ましょう。

(ますいしんじ・神戸市立赤塚山高等学校)
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