インターネット授業実践レポート

インターネットを利用した授業例として,昨年度 (1995年)の選択英会話(3年生・7名)での実践 をレポートします。

1)なぜインターネットなのでしょう?

昨年度の選択英会話の授業を計画するにあたって 考えたことは,生徒のコミュニケーション能力の向 上に必要なものは何か,ということでした。当然の ことながら,人と人とのコミュニケーションが成立 するためにはその伝えるべき内容が最も重要な要素 です。伝えたい内容がなければそれは本当のコミュ ニケーションとは言えないでしょう。

@他人の意見の受け売りではなく,自らの意見を自 らの言葉で表現させるにはどうしたらよいか。 Aうわべだけの英会話でなく伝えたい内容をしっか りと多方面から考えさせるには? B自分の考えを伝えたい相手は誰か,教室という閉 ざされた環境でよいのか。

以上3点を考えたときに,教室の枠を越えて,自ら 考え,発信する態度を養うには世界的規模のネット ワークであるインターネットを利用するのが最適と 判断しました。 インターネットを授業に利用する際の留意点とし て,それが目新しいメディアであるがゆえに,1種 のイベント的になってしまいやすい,ということが あげられます。日頃の授業の中で,ネットワークを いかに自然に使うかということも課題として取り組 みました。また,コンピュータ使うといっても回線 の向こう側にいるのは生身の人間ですから,相手の ことを考えて,というコミュニケーションの基本に も留意しました。

2)コンピュータスキルについて

英語の授業でコンピュータを利用するためには, 生徒はコンピュータをどこまで使うことができれば よいでしょうか?教室環境により,多少違ってくる でしょうが,キーボードに慣れ,エディターで英文 を入力できることができればそれで十分でしょう。 この授業の目的はタイピストを養成することではな いのでブラインドタッチ(キーボードをみないで打 たせる)などはあえて指導しませんでした。エディ ターもファイルの保存,呼び出しなど最低限のこと しか教えませんでした。刻々と変化する最近のコン ピュータ事情を考えるとキーボードすら不必要にな る時代が来るでしょうから,「必要なことを必要な 時に」を原則に考えました。昨年のコンピュータ室 は生徒用はフロッピー起動24台プラス1台の教師 用 Windowsマシンという環境でしたので,LANを 組んでいる場合と比較すると,余計なコンピュータ 操作に惑わされて肝心の英語を使うことに支障を来 たすことがなく,かえって使いやすかったように思 われます。 現在でもこのようなシステムを使っておられる学 校もあると思われますから,具体的なファイル管理 について書いておきます。まず生徒用にはひとり1 枚のフロッピーディスクを用意します。生徒がその ディスクでコンピュータを起動すると,エディター が自動起動するように設定しておきます。ファイル の呼び出し,保存の方法さえ教えておけば放課後な どにも生徒が自分で英文の入力ができるわけです。 入力した英文は授業の項目ごとにファイル名を指定 して各自保存します。ファイルの入力が終わればフ ロッピーから教師がファイルを取り出し,それを電 子メールやWWWのファイル形式である html に加 工し,ネット上に送り出します。逆に外部から送ら れてきた電子メールなどはプリントアウトして授業 で配布したり,個人に渡すことになります。今のと ころ生徒個人のメールアドレスはありませんから, 教師のアドレス経由でメールが配送されてきます。 そのせいか検閲をしていたわけではないのですが, 個人宛ての変な内容のメールは少なかったと思いま す。さしずめ「人間ファイアーウォール」といった ところでしょうか。

3)授業形態

授業はALTとのティームティーチングの形態を とり,生徒は前述の通り,3年生の7名が選択科目 として受講しました。週2時間の授業で,毎回コン ピュータ室を利用しました。

4)1年間の流れ

@テーマを決めて英語でディスカッションをする。 Aディスカッションの中でまとめた自分の意見を英 文にまとめてホームページに掲載する。

という2つの柱を中心にオンライン活動を利用して 今回の英会話の授業を実施してきましたが,以下に その経過とそれに対する私なりのコメントを書いて みます。

<4月> Grobal School House Project まず最初に自己紹介をホームページに載せること から始めました。−−−と書きたいところですが, 最初の授業でいきなりお客様を迎えることとなりま した。Global School House Project の一環で世界 を旅しておられる Rogerさんが来校されたのです。 Rogerさんは世界の子供たちの相互理解の一助とな ることを願い,15カ国,450の小中高校に旅先 で訪問した学校などの様子をインターネットを通じ てメッセージを送り続けておられるそうです。来校 の模様はホームページ(以下ページ)にも画像と生 徒による Rogerさんへのメッセージを交えて掲載し ています。Rogerさんの来校を通じて生徒は,ボタ ン1つで世界の人達と交流できるネットワークの素 晴らしさを体験したと同時に英語という言葉の持つ 可能性について再認識したようです。インターネッ ト上ではこのようなオンラインプロジェクトが様々 な団体,個人によって実施されていますので,必要 に応じて参加されるのもいいと思います。生徒のレ ベルやバックグラウンドなどもプロジェクト参加の 判断材料となります。例えば1つの失敗談として, 9月に参加したAsia Now Online というプロジェク トでは隔週のペースでアジア諸国の問題に関してか なりの資料を読ませる必要があったわけですが,社 会科でもアジアについて詳しく学習しておらず,そ の知識を基にしたディスカッションは生徒にとって はかなり無理があり,結局途中で Give up してし まった,ということもありました。

<5月> 生徒の声を世界に さて,自己紹介の話に戻ります。これまで何度か 海外の学校と電子メールによる交流を実施してきま したが,電子メールによる交流の難しい点として, @交流校を探すこと,A交流校が見つかったとして も相手もこちらの望むような交流を希望しているか どうかよくわからない,B学期制度の違いにより, 継続的な交流が困難,などがあげられます。最初は 活発だったメール交換も,ある程度時期が過ぎれば 書くことがなくなってしまったように感じる生徒も 出てきます。そこで今回はページを利用して自己紹 介のメッセージを発信することにしました。ページ 上に自分のアピールしたいことや世界の人に尋ねて みたいことなどを書いておけばメールを送ってくる 相手も書きやすく,ポイントを絞った情報交換が出 来るのではないかと考えました。 しばらくすると生徒のページ (ec.html)に対して いろいろな人からメッセージが届きはじめました。 生徒の一人一人の疑問や趣味についてそれぞれコメ ントをつけてくれた人や,日本の習慣についての質 問があるアメリカの生徒達からのメールもありまし た。届いたメールを題材にしてALTを中心にディ スカッションをし,その後,各自がそれぞれの意見 をフロッピーに入力していきます。出来あがったも のを電子メールとしてコメントを送ってくれた人に 返信しました。このページに関するいろいろなコメ ントはこの後生徒が卒業するまで届き続けました。 現在の本校のページへは1日平均で約30名のアク セスがあり,置いているゲストブックには各国から 日々いろいろなメッセージが残されています。それ を考えても諸外国の日本に対する関心の高さが伺わ れます。生徒1人1人が日本の代表のひとりとして 発言することが望まれているのかもしれません。

<6月> −1 復興への思いを 阪神大震災後の世界各国からの励ましのメールに 答える,という意味も込めて6月は地震のことをテ ーマにディスカッションを行いました。震災百日を 過ぎての感想や神戸の現況を述べ合い,それを文化 祭のページ( We are alive in Kobe )として公開 しました。本校ではこの時期,そして神戸というこ とでこのテーマを選びましたが,その土地それぞれ の地域情報発信が重要視されている現在,テーマは 多岐に渡ると考えられます。

<6月> −2 インターネットフォンを使って 世界とリアルタイムでつながる−−−これはイン ターネットの魅力の1つでしょう。リアルタイムで の交信には1対1のチャットであるtalkや特定のサ ーバーに集まった人たちがキーボードで会話をする IRC などがありますが,昨年のこの頃,実際にマイ クを使って会話をすることが出来るInternet Phone というソフトが開発されました。自宅で試したとこ ろ,アナログ回線でも十分利用できることが確認で きたので授業で利用することにしました。このソフ トを英会話で使う利点としては @ALT以外のネイティブスピーカーと直接会話す ることが出来る A前もって相手とアポイントをとっておかなくても その時間にサーバーにいる誰かを選んで話が出来る B誰が出てくるかわからないので適度の緊張感が得 られる という点があげられるでしょう。ABを逆に考えれ ば会話のレベルが相手によって変わるので授業をす る側の立場からすると予想がつかず困る,という欠 点にもなるのですが。 前の授業で相手への質問例を書いたプリントで練 習したり,自分で質問やいいたいことを考えさせる ことを宿題にしたのですが,実際に接続してみると なかなか思ったように会話が続きません。ある生徒 は何度か相手を替えつつ,やっとカナダの人と5分 間ほどの会話をすることができ,終った後はほっと すると同時に満足そうでした。ISDNの普及など で高速回線による接続が普及しはじめていますので 画像つきのリアルタイムな情報交換(CU-SeeMeなど) も今後は当たり前のものになってくるかも知れませ ん。

<7月ー> WWWでのディスカッション タイムリーなトピックについて世界の人々と意見 を交換できる−−−これもインターネットの大きな 魅力です。7月に生徒が世界に投げかけた核実験に 対する意見を求めたページには国内外から大きな反 響がありました。 反対意見のみを集めるのではなく,賛成意見も同 時に聞いてみようという立場をとったところ,賛成 意見,またその理由も送ってもらうことができまし た。夏休み明けの授業では寄せられたそれらの意見 をもとにディスカッションを行い,再びページに自 分達の意見をフィードバックしていくという手法を とりました。現在のところ60のメッセージを掲載 しています。その後,同様の手法で環境問題に関す るテキストを読み,私たちが環境に対して出来るこ とは何か,というテーマで意見を掲載し,現在40 のメッセージが掲載されています。 このWWWを利用した意見交換が普通のメールに よる意見交換と大きく違う点は, @誰でも参加することができる Aページはいつでも見ることができる(消えない) という2点で,話題の提供の方法によってはかなり 多方面からの意見を集めることが可能だと言えるで しょう。また今回の核実験や環境などのトピックは 一過性のものとして片づけられるべきではなく,今 までの意見を土台により深い議論を再開できる可能 性を残すことができます。

5)インターネット競争からインターネット協調へ

インターネットサービスプロバイダーの急増で一 般の学校で手軽にインターネットを利用できる環境 がここのところ急速に整備されてきました。新しい メディアであるネットワークを教育に定着させる為 には今まで以上に私たちの協調関係が必要となって きます。ネットワークのより効果的な利用法を一緒 に研究していきましょう。

桝井 伸司 Shinji Masui < masui@masui.com > WWWBoard for Education http://www.masui.com/