インターネットの教育利用の実際とその可能性

Using the Internet in Education

桝井 伸司

Shinji Masui

 

神戸市立赤塚山高等学校

Kobe Municipal Akatsukayama High School

 

あらまし:インターネットがまだ現在のように一般化していなかった1994年秋、神戸市は全国に先駆けてホームページを公開し、ネットワーク化の一環として教育分野にも実験的にインターネット導入を試みた。本校はその際に神戸市内の他の高校と共にシアトル市との教育プログラム(電子メールを利用した交換プロジェクト)に参加し、同時にホームページを開設した。開設当初より、海外諸国に日本の文化やありのままの高校生活を伝える、ということをコンセプトにホームページを運営し、生徒自身が伝えたい内容を持ち、それを英語という道具を使って表現させていくという点に重点を置いてきた。昨年10月に全米27紙に学校のホームページが紹介されたり、12月にはAdobe Press 社の Kids Do the Webという本にホームページによって情報発信している学校の1つとして大きく取り上げられるなど、ネットワークならではの反響に驚かされたことも多い。急速に普及してきているとはいえ、インターネットはまだまだ新しいメディアであり、授業の中に効果的に取り込み、あくまでも「道具」としてネットワークを利用していくことが肝要であると思われる。ここではネットワークの教育利用の可能性、留意点について現在までの具体例を交えて述べる。

 

Summary: The Internet is not the aim but surely one effective tool to express what you feel and what you think to the people around the world. We began to use the Internet in classes in 1994 when it was not so common media in Japan. First, we joined Seattle Kobe Internet Project (SKIP 94) with the supervision of Kobe Education Center. It was an experiment trial to see whether the Internet could be effective in education or not. From then we have been using it with one concept: To let other people in other countries know about Japanese culture, what Japan is and what ordinary Japanese high school students think. We were very surprised to get so many responses from people in various countries in doing some educational projects. Though the Internet now seems to become much more common tool than it was three years ago, we dont seem to have established the effective way to use it as a tool in education. To do that, we have to set up teachers training system, too. In this paper, I d like to write about what we did with limited budget and the unlimited possibility of what we will be able to do in the future.

 

キーワード:インターネット、教育、ホームページ

Keywords: the Internet, education, home page

 

1.ネットワーク利用の利点

 ネットワークを使う場合とそうでない場合の大きな違いは何か。「ネットワークの世界はバーチャルリアリティー(仮想現実)である」と一般にはよく言われる。そして現実社会と仮想社会の区別がつかなくなる危険があるので注意する必要がある、とも言われているが、ネットワークの利用、特に外国語学習においての利用は、まさにこの反対ではないかと思われる。ネットワークを通じてお互いに本当に求める情報を交換し合い、相手が英語を第一言語とする場合、お互いの意志疎通の為に英語を使用することになる。まさに英語はコミュニケーションの為の道具として機能する。教室という閉ざされた空間を超えてより現実に近いオーセンティックな環境を与えることが出来るのがこのネットワークである。現実の世界への窓が1本の回線によって教室内に開かれるわけである。その意味で教室内のみでの活動に比べ、より教育的であるといえるのではないだろうか。また言語材料等もそこから引き出してくることができ、最新の情報をいち早く効率的に利用することが可能となる。学習者にとっても学習する言語をより身近に感じることができ、その言語での実際のコミュニケーションは興味深いものとなる。ネットワークを利用する利点を3つにまとめると、1.Educational、2.Efficient  3.Enjoyable for the students. ( 3Es) となる。

2.利用分類

インターネットの授業での活用としては大まかに次の5つに分類できる。

1)交流型2)資料検索型 3)作品発表型 4)リアルタイム交信型 5)共同研究型 6)ボード型

 

1)交流型

電子メールを利用した国際交流 。利用教科としては、英語科・社会科などが考えられる。

形態:クラスークラス、個人―個人
長所

1つのメールアドレスで始めることが可能、最低限の設備があればできる。(1台のパソコン・モデム・電話回線)適した相手校を見つければ内容的にも深い情報交換ができる。 (姉妹校があれば最適。海外研修等を行っていて、交流校と実際に顔を合わせる機会がある学校などでは、以下の短所を補いやすい)

短所

海外校を相手にした場合、学期制の違いのために継続した交流が困難なことがある。

例:アメリカの学校では5月末から休暇に入るので日本の学期が始まり、交流に都合のよい6月が使えない。実質的には9−12月が共同で授業に利用できる期間であり、しっかりした目標設定がないと自己紹介で終わってしまう。

ポイント

交流目的の明確化

個人メールとクラスメールの使い分け

(個人宛てのメッセージなのか、クラス全員に対するメッセージなのかをはっきりさせる。 個人がメールアドレスを持ち始めている現状を考えると、授業で扱うメールと個人メールは使い分けるべき。)

教師同士の事前の打ち合わせ

(授業で利用する以上、メール交換に何らかの目的を与えるべきである。その為にも担当教師同士の打ち合わせが必須である。)

休業中のケア

(交流校の両方が同時に活動できる期間が短いため、その期間の開始後すぐにでも活動に移れるよう準備しておくとよい。)

 

2)資料検索型

WWWのサーチエンジンを利用し、レポート作成などを行う。

形態:グループ学習、個人学習――検索のテーマを与える
長所

生徒が主体的にネットから1次情報を取り出すことができる。与えられたテーマを生徒自身の発想で膨らますことができる。検索で得た情報を検討し、自分の意見に資料による裏付けをすることができる。

短所

教室内にインターネット接続された端末が数台必要。

(1人1台が理想だがグループ学習の場合各グループに1台でも)
情報ソースによっては掲載されている情報が正しいとは限らない。情報の真偽を読み取ることが肝要。

検索に時間がかかる

(あらかじめキャッシュに入れておいた情報の中から検索させることを考えてもよい)

著作権の侵害にならないように注意する。

(画像、グラフなどの資料を引用する場合の方法について指導しておく。)

ポイント

教育サイトを利用する

検索ツールと電子メールの組み合わせにより、より正確で詳細な情報を得る

(情報提供元に電子メールを使って問い合わせてみる。依頼の際のエチケットについても指導しておく。)

 

3)作品発表型

制作、創作したものを世界に向けて発表する。 様々な教科での利用が考えられる。

形態:授業で制作した作品や作文などをホームページ上に公開する。ホームページを持っていることが必要。

長所

本来なら、授業で作成→教師の評価 で終わっていたものを世界の人に見てもらうことで1つの動機づけとすることができる。

短所

一方通行になり易いので注意する。

(掲載するだけで満足してしまいがち)

ポイント

Webを見ている人に感想を求めたり、同様の作品を掲載している学校とリンクを張り合ったりすることにより作品発表に双方向性の要素を取り入れる。全国レベル、世界レベルでのコンテスト等の実施も考えられる。

4)リアルタイム交信型

Cu−SeeMe(TV会議)やインターネットフォン、チャットプログラム、IRC等を利用し、リアルタイムで情報交換をおこなう。

形態:教室での参加形態としては1端末の画面を拡大し、代表が交信に参加する。

長所

臨場感のある情報交換ができる。

外国語の授業などでは聞く、話すといったコミュニケーション能力を試すことができる。

短所

CU−SeeMeの場合、速い回線がないと画像+音声は難しい。

時差があるため相手との時間調整が困難。

例:シアトルとチャットをした時はこちらが朝9時、向こうが夕方4時だった。

言語能力がある程度ないと交信の内容を深めることが困難

一般に公開されているサーバーを利用した場合、どのような相手が入ってくるかわからない。教育目的専用のサーバーの設置が望ましい。

(アメリカでは申し込み制でそのようなサーバーの利用が可能なサイトもある)

ポイント

交信のテーマの明確化

相手校との事前の打ち合わせ

5)共同研究型

各地で同一の事を実施し、その後の経過について報告しあったりする。

形態:プロジェクトによって異なるが、期間を限定して参加校を募集し、参加校はプログラムにしたがってデータを交換する。

長所

プロジェクト運営にあまり気を取られずに参加できるので参加しやすい

全国規模、世界規模で行われるプロジェクトもあるので、参加することにより、広い視野を身につけることが出来る。

短所

日頃の授業との絡み(難易度・進度)をよく考えて参加することが必要。「イベント」に終わってしまわないように。

ポイント

参加校同士の交流やホームページとからめていく。

(調査結果をお互いのWebに掲載し、公開することにより、次回の同様の調査に結び付けていく。)

慣れればこちら側からプロジェクトを提案してみる。

6)ボード型

WWWの電子掲示板やニュースグループでトピックごとの意見交換を行う。

形態:ネット上にトピックについての意見を書き込み、書き込まれた意見についてのディスカッションをクラス内でも行う。

長所

クラスで調査、討議した事柄をネット上に発表し、またそれについての意見を世界中から聞くことができるので学習内容をより深めることができる。

時間の制約が少なく、学校の枠を超えてさまざまな人と意見交換をすることができる。

例:核実験に対する意見募集には様々な国から多くの意見がよせられ、クラスでそれらをもとに討議を深めることが出来た。

短所

トピックのネットへの出し方や時期によっても寄せられる意見の質が変わってくるので注意が必要。

自由に誰でも書き込みのできる掲示板の場合、書き込まれる内容や画像などに注意する。(掲示板へのいたずらはインターネットが一般化したことで急増している。特定のIPアドレスからの書き込みを拒否することも出来るようだが、公開プロクシーサーバーを利用して掲示板にアクセスした場合、相手が特定できないことがある。その匿名性を利用した「掲示板荒らし」が出没することが問題となっていると聞く。 その為、画像貼り付けなどのHTMLタグの利用を許可しない掲示板も増えてきた。 参加者にID、パスワードを与える方法もあるが、様々な人の意見を自由に書き込んでもらうという掲示板の意義からするとベストの選択肢とはいえない。)

ポイント

討議参加者の確保 場合によっては参加校をつのる。

クラスでの作業とネットでの動きの整理

 

3.事例紹介

1) 学年、科目

95年度は英語UA(3年生選択者)、96年度はライティング(2年生全員)、今年度は3年生の選択ライティングでインターネットの利用を試みた。授業はいずれもALTとのティームティーチングの形態をとり、週2時間の授業(昨年度のライティングでは週1回)で、コンピュータ室を利用した。(今年度はLL教室にアクセスできる環境にし、そこで授業を実施している。)

2) 教師の願い

 実施する教師側としては、コンピュータ、英語、ともにコミュニケーションの道具として利用し、自ら考えた自らの意見を積極的に発信させることを望んだ。教師がすべての知識を持っていて、それを生徒に伝授するといった従来の教師の立場からアドバイザーとしての立場へと変容することが出来ないかと考えた。

3) 目標

 英語UAは旧過程の科目であるが、現学習指導要領にこの授業内容をあてはめると、オーラルコミュニケーションとライティングの2つの要素を持っているように思われる。自分の考えなどを整理して、積極的にディスカッションに参加し、またその後まとめた自分の考えなどを的確に表現することを目標とした。昨年度、今年度のライティングも同様の目標で取り組んだ。

4) 教育環境

英語の授業でコンピュータを利用するためには、生徒はコンピュータをどこまで使うことができればよいのだろうか?教室環境により、多少違ってくるだろうが、今回はキーボードに慣れ、エディターで英文を入力できることができれば十分だと判断した。授業の目的はタイピストを養成することではないのでタッチタイピングはあえて指導せず、エディターもファイルの保存、呼び出しなど最低限のことが出来るようにした。刻々と変化する最近のコンピュータ事情を考えるとキーボードすら不必要になる時代が来るかも知れないので、「必要なことを必要な時に」を原則に考えた。

本校のシステムは、生徒用コンピュータとしてフロッピー起動の旧式のもの、教師用にはWindowsマシンという環境である。教育現場へのコンピュータ関連の予算配当は全国的にもまだまだ、といったところである。しかし、このようなシステムとLANを組んでいる場合とを比較すると、余計なコンピュータ操作に惑わされて肝心の英語を使うことに支障を来たすことがなく、皮肉にもかえって使いやすいようにも思われる。具体的なファイル管理について書くと、まず生徒用にはひとり1枚のフロッピーディスクを用意する。生徒がそのディスクでコンピュータを起動すると、エディターが自動起動するように設定しておく。そうすれば、ファイルの呼び出し、保存の方法さえ教えておけば放課後などにも生徒が自分で英文の入力ができる。入力した英文は授業の項目ごとにファイル名を指定して各自保存させる。ファイルの入力が終わればフロッピーから教師がファイルを取り出し、それを電子メールやWebのファイル形式であるhtml に加工し、ネット上に送り出すという形態をとっている。外部から送られてきた電子メールなどはプリントアウトして授業で配布したり、個人に渡すことになる。今のところ生徒個人のメールアドレスはないので、教師のメールアドレス経由でメールが配送されてくる。なお、今年度はWWW上でメールを読むことの出来るサービスを利用してライティング選択者全員がメールアドレスを取得している。

5) 学習者の活動と教師の役割

95年度、英語UA

基本的には@テーマを決めて英語でディスカッションをする。 Aディスカッションの中でまとめた自分の意見を英文にまとめてホームページに掲載する。という2つの柱を中心に授業を実施した。最初のホームページ上での自己紹介のメッセージをの発信では、ページ上に自分のアピールしたいことや世界の人に尋ねてみたいことなどを書かせた。そうすれば、メールを送ってくる 相手も返事が書きやすく、ポイントを絞った情報交換が出来るのではないかと考えたからだった。しばらくすると生徒のページに対して様々なメッセージが届きはじめた。生徒の一人一人の疑問や趣味についてそれぞれコメントをつけてくれた人や、日本の習慣についての尋ねてきたアメリカの生徒達からのメールもあった。届いたメールを題材にしてALTを中心にディスカッションをし、その後、各自がそれぞれの意見をフロッピーに入力していった。出来あがったものを電子メールとしてコメントを送ってくれた人に返信した。その次は復興への思いを阪神大震災後の世界各国からの励ましのメールに答えるという意味も込めて地震をテーマにディスカッションを行い、震災百日を過ぎての感想や神戸の現況を述べ合い、それを文化祭のページ( We are alive in Kobe )として公開した。7月に生徒が世界に投げかけた核実験に対する意見を求めたページには国内外から大きな反響があった。反対意見のみを集めるのではなく、賛成意見も同時に聞いてみようという立場をとったところ、賛成意見、またその理由も送ってもらうことができ、夏休み明けの授業では寄せられたそれらの意見をもとにディスカッションを行い、再びページに自分達の意見をフィードバックしていくという手法をとった。現在のところ60のメッセージを掲載している。その後、同様の手法で環境問題に関するテキストを読み、私たちが環境に対して出来ることは何か、というテーマで意見を掲載し、現在40のメッセージが寄せられている。このWWWを利用した意見交換が普通のメールによる意見交換と大きく違う点は、@誰でも参加することができる Aページはいつでも見ることができる(消えない)という2点で、話題の提供の方法によってはかなり多方面からの意見を集めることが可能だと言える。また今回の核実験や環境などのトピックは一過性のものとして片づけられるべきではなく、今までの意見を土台により深い議論を再開できる可能性を残すことができる。環境問題の意見を読んだオーストラリアの学生達からのメールにより、その後しばらくメールによる交流が続いた。最後にはオーストラリアの学生たちが日本語で作成した環境ポスターが届いた。現在の本校のページへは1日平均で約30件のアクセスがあり、置いているゲストブックには各国から日々いろいろなメッセージが残されている。それを考えても諸外国の日本に対する関心の高さが伺われる。生徒1人1人が日本の代表のひとりとして 発言することが望まれているのかもしれない。

96年度:ライティング

昨年度のライティングでは2年生全員(270名)を対象にインターネットでの取り組みを実施した。1クラス40名に対して生徒用パソコン20台という状況で、毎回ネットワーク利用というのは無理なので、テーマを絞った活動を行った。基本的にはライティングのテーマごとに書く内容をブレーンストーミングし、まとまったらディスクに入力(授業で半分、残りは放課後)し、ネット上に出していく、という形をとった。例えば日本、アメリカのことわざを元に物語を創作し、“Kotowaza on the Web”として発表したり、あるアメリカの高校の先生からの提案で男女の性差に関する意識調査を行い、その結果をWebに掲載したりした。また、授業ではないが、この学年の修学旅行の模様も現地から日々報告することができ、現地から送られた生徒たちの元気な姿に保護者からのメッセージもとどいた。

97年度:選択ライティング

過去2年間の経験を元に今年度は以下の計画で授業をすすめている。

年間計画

目標: ライティングにおける基礎的な文法事項、表現法を身につけること。

コンピュータ操作に慣れること、emailの送受信ができるようになること。

インターネットの概要(インターネットで出来ること)を理解し、ネットワーク上に自分の意見を発表できるようになること、またネット上で意見交換をすることにより、自分の考えを深めていくこと。

授業の流れ

1学期

@Basic Skill

  1. コンピュータ操作に慣れさせる

2)ライティングの基礎としてのブレーンストーミングに慣れさせブレーンストーミングを使って自分の意見を整理し、短文からパラグラフへと膨らませていく

AUsing Mail

1) フロッピーに教師へのメッセージ等を入力し、それに対して教師が答える。

2) フリーのWWWベースのメールサービスを使って生徒一人一人にメールアドレスを与える。

メールの送受信に慣れ、英文を書く事によるコミュニケーションに慣れさせる。

BTopics

1)自分の考える夢の家(Dream Home)、学校生活(School Life)日常生活(Daily Life)などの特定のトピックについて自分の考えをまとめさせる。

2) 書いたものはWeb上のBBS(掲示板)に書き込み、海外の生徒にも読んでもらう。

という3つの面から授業を進めていくことにした。

まず@Basic Skill 1) についてだが、あらかじめOS、エディターを入れておいたフロッピーディスクを生徒に配布し、パソコンのスイッチさえ入れればエディターが使える状態にしておく。エディターとしてはDOSで動くフリーソフト、JEDを使っている。ファンクションキーにメニューが割り当てられているので初心者にも使いやすいエディターである。新規ファイルの作成、保存、読み込み、編集の方法などを指導した。次に2) のブレーンストーミングだが、あるテーマから連想する単語、事項等を図に記入していき、そのテーマに関して自分が連想することをその図に書き加えていくことによってテーマに関する認識を深めていく。ある程度その作業が終わった後はその図を参考にして短文を書き、徐々にそれをパラグラフへとReviseしていく。最初のうちはなかなかうまく連想が結びつかない生徒が多いが、徐々に慣れてくるようである。AUsing Mail 1)では海外とのメール交換を始める前に、実際のメール交換を始める前の練習として、まず自分のフロッピーに自分の紹介、教師(ALTと私)への質問、メッセージ等を書き込み、授業後にそれを教師が添削したり、返事を書いたりする、という形をとった。それが慣れてきた頃に 2)でメールアドレスを取らせた。教育環境のところでも触れたが、インターネットにアクセスできるパソコンが1台しかないので、WWW上から電子メールを読み書きすることが出来るサービスを利用した。このサービスというのは、WWWにさえアクセスできればその画面上からメールの授受ができ、しかもフリー(自動的に広告をロードするようになっているため)で登録できるものである。現在このようなサービスを行っているサイトとしては、Netaddress, Hotmail社などがある。好きな名前で、例えば、data.picard@usa.netなどのメールアドレスが取得でき、物理的には世界中どこからでも、自分のコンピュータを持っていくこと無しにメールの授受が出来、その会社が倒産でもしない限り、そのアドレスを恒久的に使うことが出来る、という利点がある。このアドレスを生徒に取得させ、さらに私が個人で利用しているサイトのメール転送を利用してメーリングリストを作り、そのアドレス宛てのメールは生徒全員が読むことが出来るようにしている。最近、日本語を勉強したいというアメリカの高校生が学校宛てにメールを送ってきたが、この生徒とメール交換を始めた生徒も出てきた。BTopics では Basic Skill で練習している「ブレーンストーミング→パラグラフ作成」という方法を使って Dream Home, School life 等のトピックについて文章を書いていく。完成した文章は WWW上の BBS for Students に書き込む。これは今回のライティング用に作った掲示板のようなもので、WWWのブラウザー上から文章を書き込めば、それがその場でインターネット上に出版されるというものである。出版された文章の読者がその文章に対して感想を書くこともでき、その感想もその場でインターネット上に出版される。また、まったく違ったトピックを始めることも可能なので、今まで生徒の作品等を発表する場のなかった先生方にもどんどん利用していただきたい。具体的には、生徒は打ち込んだ自分のフロッピーを教師用パソコンに入れ、そこから自分のファイルを呼び出して、WWWブラウザー上で貼り付ける作業を行っている。

その他の活動としてはPowowというチャットソフトを使ってカナダ人の生徒とやり取りをしたことがあげられる。相手側は夜の10時くらいだったが、頼み込んで30分ほど付き合ってもらった。このソフトでは相手を国名や年齢、趣味や性別によって選択することができ、回線状況によっては音声による会話もできる。タイピングはALTが担当し、生徒たちは液晶プロジェクターによって拡大した画面を見ながら相手に質問をしたり、相手の質問に答えた。画面の向こうに実際に存在する同世代の若者との文字を通じた会話に、生徒達は少々興奮気味ながら、熱心に画面に見入ったり、質問を考えたりしていた。

ここまでが現在までの経過である。2学期・3学期にはトピックをもとにしたライティングを中心にし、生徒それぞれに文化的テーマに基づいたホームページ作成をさせる予定である。ねらいとしては生徒自身の目から見た日本の文化、といったようなものが出来れば、と思っている。他の教科と共同して、ということも視野に入れていきたいと考えている。

現在、神戸市では小学校から高等学校までのすべての学校にインターネットの端末を設置し、職員室からいつでもインターネットにアクセスすることが出来るようになっている。ホームページについては、生徒の個人情報公開に関する基準を含めてページ開設のガイドラインについて教育委員会を中心に検討中で、そのガイドラインを受けて各校が徐々にホームページを公開していく手順になっている。実験段階から実用段階へとインターネット利用は着実に教育分野にも浸透してくるものと思われる。本校ホームページの状況だが、ガイドラインが現在(97年8月)まだ示されていないので、今年度に入ってから更新停止中で、またURLもYahoo等の各検索サイトに登録されているものと違う場合がある。応急措置として、転送URLにアクセスすればテンポラリーURLに転送されるよう設定しているが、これはあくまでも仮の処置なのでご了承いただきたい。また、震災の影響もあり、来年度より本校は神戸商業高校とともに新校舎に移り、新構想高校との3校併置となり、3年後には新構想高校に統合移行されていく予定で、ホームページについても、ネットワーク利用についても情況は大きく変化することになることが予想される。

 

4.今後の課題と展望

インターネットは「流行」なのか?

8月6日付けの朝日新聞に中国でのたまごっちの流行を人民日報が批判する記事について書いてあり、人民日報では「中国人は、人が持っていれば自分もほしくなる、という性格がもともと強い。みんなが流行を追いかけることは児童の人格形成に悪い」とあったそうである。ネットワークの教育利用の場合も、「はじめにインターネットありき」では目標を見失いがちになるだろうし、これからネットワーク利用を広めていく場合に「ネットワークでないと解決しない事柄」という意識を持つ必要があるだろう。今後テクノロジーはどんどん進化していくことが考えられる。そういった技術を提供する側(例えば大学とかプロバイダー、企業)にとっては、とりあえず使ってもらうことが目標になるだろうが、実際に授業で利用する側としてはそれぞれ個々の状況に応じて解決すべき問題に対する解決策としてのネットワーク利用であるべきではないかと考える。インターネットがある種のブームと一般にとられている現状を考えると、このような意識を持つことが必要なことと思われる。

ネットワークリテラシーについて

神戸市須磨区の事件ではインターネットで容疑者の実名や写真が掲示板やホームページに掲載され、ネットワークの規制問題が浮上した。多くはアメリカのホームページ無料のプロバイダーにそれらは掲載されていたが、WWWにアクセスさえ出来れば匿名でホームページを公開でき、メールさえ匿名で取れるという現状の中で、規制が良いか、悪いかは別としてそれらについて考えていく上での基礎となるネットワークやコンピュータに関した一貫した教育が必要ではないだろうか?ネットワーク教育に関しては現在の学校のカリキュラムが追いついていないのが現状で、小中高でばらばらなことがなされている。コンピュータの機種がいろいろ、だとか、学校によって設備に差があり、統一したカリキュラムは不可能、との声もあるだろうが、効率を考えた場合、また上記のような問題が今後、次々と出てくることを考えるとネットワーク教育を学校教育のカリキュラムの1つとして取り入れていくことの必要性を感じないではいられない。

教科の壁をなくして

インターネット利用に取り組む前年、National Geographic社の主催するネットワークプロジェクト、”What Are We Eating”に参加した。このプロジェクトでは我々が日常的に口にしている食物を調査し、その結果を世界中から報告しあう、という活動をした。生徒は家庭科の授業で郷土料理や日常食の特徴やその栄養成分などについて学習し、その結果を英語の時間に英文レポートにまとめてアメリカの本部に送った。

このプロジェクトには2年連続で参加し、ホームページでも画像を交えてレポートを発表したが、これからはこのような教科の壁を越えた学習が必要になってくるものと思われる。他の例としては本校のホームページで公開している万葉集のページがある。これは本校教諭の研究をWebに掲載したものだが、生徒が古典で学んだ万葉集に関する事柄を英語のページにする場合を考えると、単なる現代語訳でなく、原典の深い理解が要求されるだろう。このことは双方の教科の力を伸ばす上で大きな役割を果たすに違いない。また、95年の国連のプロジェクト、”Voices of Youth では現在世界が抱える様々な問題について若者達が考え、彼らなりの解決策を提案していた。

本校生徒も20名ほどがこのテーマに基づいて意見を出したが、社会科との連携授業をすればもっと内容が深まったことだろう。

この画像は昨年3月にICTEにCMLスカラーとして参加した際のもので、ルイジアナ州の中学生たちが日本について学習していた。海外で日本や日本語について学習するこのような学校とインターネットを通じて交流を結び、必要とする情報を交換できればお互いが得るものは大きいのではないだろうか?その際に必要に応じて複数教科で調整しあって授業を構成していけば、より効果的なものとなるだろう。

教師のトレーニング

インターネットは着実に一般家庭に入ってきている。数年後には教師より生徒のほうがネットワークについて詳しい、という状況が出てくるかもしれない。学校でより効果的にネットワーク利用を進めていくためには教師のトレーニングが必要である。先のルイジアナ州でも地元の大学がリーダーシップを取ってK12の教師達が学べる環境を作っていた。日本でも国際電子ネットワーキング教育学会(AGENE)などの研究会が早くから先進的な試みを続けており、100校プロジェクトやこねっとプランの影響もあり、各地域の教育委員会、教育センターも活発な動きを見せはじめている。ここ数年でシステム的には大きなブレークスルーを迎えるかもしれない。いずれにしてもネットワークの教育利用は実験期を終え、実用期を迎えつつあることは確かで、より効率の良い利用法の研究が必要である。

 

おわりに

この3年間でネットワークを取り巻く状況は急激な変化を遂げた。ただ忘れてはならないし、忘れないようにいつも私が心にとめているのは、ネットワークを支えているのは生身の人間であり、端末の向こうにいるのは我々と同じ感情を持った人々であるということである。